『宇宙戦艦ヤマト2199』「たっぷりヤマトークナイト・第四章」庵野秀明×出渕裕対談

宇宙戦艦ヤマト2199』「たっぷりヤマトークナイト・第四章」庵野秀明×出渕裕対談

2013年1月22日(火)新宿ピカデリー スクリーン1

(司会の小林治氏の前説のあと、ゲストの出渕裕総監督と、庵野秀明監督が登壇)

B:今日のゲストは、一応スタッフなんですよ。濃い目の話をしようと思ったんですが、あまり濃すぎるのも……と釘を刺されてます。

A:ヤマトファンの庵野です。オープニングの絵コンテを手伝わせていただきました。バーターだったんですよね。
B:業界では、よくある話です。
A:詳しくは言っちゃいけないっていわれました。
B:ちょっとお手伝いしました。
A:今バルト9でやってます。(会場拍手)

――いつもゲストの方にうかがっているのですが、庵野さんのヤマトとの出会いは、やはり1作目ですか?
A:1作目の本放送になります。中2でした。
B:1話から観てたの?
A:1話は見そこねた。
B:同じだ。
A:2話から観てびっくりして、テレビを録れるカセットを、親に英語の勉強をするといって手に入れて。3話から録音した。
B:俺も全く同じだ。当時、セールスで来るんですよ。それで『ヤマト』の音を録った。三脚を立てて画面も撮った。
A:ずっと聴いてましたね。ほとんどの台詞を覚えた。
――どこで番組を知ったんですか?
A:「少年サンデー」に載った小さな記事ですね。もうひとつは「冒険王」です。それを見てびっくりして、これは観なければと。でも1話は観られなかったんですよ。家族は『ハイジ』を観ていたから。そのとき、旧式の白黒テレビがあったので、来週からは僕だけイヤホンで観ていた。
――本放送は、白黒でご覧になってたんですか?
A:親が見かねて、途中から小さいカラーテレビを買ってくれました。
B:鬼気迫る感じで観てたんだろうね。人のことは言えないけど(笑) 再放送があるからクラブ活動なんてやらなかった。
A:いちばん最初に再放送をやったのが福岡の局なんです。うちは山口なんですけど、ぎりぎり入る友だちの家があって、そこしか再放送を見るチャンスがなかった。あと、友だちがベータマックスを買った時、頼み込んで録画させてもらいました。浪人生の頃ですね。あとは、島根の親戚のところに泊まりに行ったり。

――そこまで突き動かしたのは、他の作品にはないものがあったんですね。
A:ステージがひとつあがったような気がしました。
B:やっぱりビジュアルですね。宇宙船といったらロケットとか円盤しかなかった時代に、こんなに細かいものが。
A:オープニングのCUT11ですよ!
B:あれか。『2199』で、再現したでしょ。
A:再現できてないよ! 本当は絵コンテだけじゃなくて、もうちょっとやりたかったんですよね。
B:無理でしょう、いろいろやってたんだから。
A:調整はしたんだよ。サンライズの事情でできなかった。
――何がいちばん、ご自分の作品に影響を与えたと思いますか。
A:中2の時に見ちゃったからね。よく高校生の時に見てたよね。
B:迫害の的だったよ、はっきり言って(苦笑)
A:『海のトリトン』の時は?
B:中2かな。家族で尾道に旅行に行った時、再放送があるからといって、一人で広島から神奈川に帰って、ベータマックスで録画しましたよ。
――当時は予約機能がなかった。
B:コマーシャルをカットするテクニックがあるんですよ。VHSはダメなんです。反応が鈍いから。


――お二人が知り合ったのはいつですか?
B:パーティとかでは会ってたよね。なにかのきっかけで飲み会に行って、ヤマトの話で盛り上がった。僕が『パトレイバー』で庵野が『トップをねらえ!』をやってた頃かな。
――お二人で、ヤマトの好きなところって違うんですか?
A:違いますね。
――出渕さんはガミラス派。
A:ぼくはヤマトです。
――お好きなキャラクターは。
A:沖田艦長と森雪です。
B:デスラーです。退廃的なんですよね。だから、『さらば』以降のサムライっぽいのはね。
――沖田艦長の魅力というのは。
A:大人ですよね。台詞のいちいちにしびれます。
――古代進は?
A:古代は……人格がおかしいじゃないですか(会場笑) エンディングでは沖田十三の名前はテロップの一番上に出ますし。沖田が主役だなと。
B:だから沖田が死んだ後はね。(完結編の)「誤診じゃった」というのは、許しがたいものがありましたよ。当時、スタッフとして行きましたけど。
A:ロボットホース。
B:言うと思った(笑)
A:『完結編』、初日に観に来ましたよ。石黒さんと一緒に。
B:石黒昇監督、『2199』を楽しみにしてくださっていたんですよ。本当に、石黒さんには観ていただきたかった。


――今回、オープニングの絵コンテを担当されていますが、出渕さんのオファーだったんですか。
A:オープニングくらいならできるかなと。
B:今回は、『ヤマト』の影響で業界に入っちゃった人に参加してほしかったんですよ。でも、大作を抱えていたからね。
A:ただ、僕がやるなら、オリジナルと寸分違わぬものにするよって。
B:それは、わかってた。ただ、キャラクターはわからないじゃないですか。「ここ、よろしく」って感じだったんだけど、これ『ガンダム』でホワイトベースのメンバーが出てくるところと同じだ(笑)
A:いちばん手間がかからないから。直してもらうの前提で。
B:主題歌が同じというのも大きいですね。それがなければ頼まなかった。
――ちょっとだけ、不満があるとおっしゃってましたが。
A:どうしてもCGの限界がね。作画の格好良さには及ばない。
B:絵コンテだけでなく、作画もカラーに受けてもらえればという話もあったんです。
A:いろいろと大人の事情がね。
――仮に、お時間があったとしたら、庵野さんとしてはやりたいところってありましたか?
A:『ヤマト』は老後の楽しみに二人で取っておこうと言っていたのに、先に一人でやりやがって(会場拍手)
B:俺たちが権利を持ってるわけじゃないから、チャンスを逃したら無いかもしれないじゃない。もし『ヱヴァ』がなければ声をかけてましたよ。庵野が監督で俺が参謀で。誤解のないように言っておくと、これは個人レベルの話です。『2199』のオファーが庵野君に行ったわけじゃないです。
A:僕には、なかなか縁がないから。
B:『仮面ライダー』も『ヤマト』も『ガンダム』もやってズルいって(笑)
A:これで『ゴジラ』と『ウルトラマン』をやったらグランドスラム達成ですよ(会場拍手)
B:その時は一緒にね。

――もし、庵野さんが『2199』に参加するとしたら。
A:第一章と第二章は僕がやり直します。ブッチャンはさあ、ガミラスだけやってれば良かったんだよ。太陽系は僕がやった方が良かった。ガミラスへの愛をもうちょっと地球側にまわしなよ! ヤマトに!! コスモゼロに!!!
B:尺はそんなに取ってないじゃない。
A:凝縮度がぜんぜん違うわけですよ。
B:責められてるな、俺。
A:責めてるよ! もうちょっとヤマトやろうよ。ぜんぜん足りない。
B:これは言っちゃいけないんだけど、今やってる作品についてね。「ブッチャンが落としたところを全部俺が拾った」 それで、初号を観にいくじゃない。これかよ! すいません、これだけで40分かけるってテレビじゃ不可能だから!

A:いいじゃない、そっちは、26本もあるんだから。
B:そうかもしれないけどさ。バランスってあるじゃない。
A:バランス考えちゃダメだよ!(会場拍手)
B:昔から、考える方なんだよ!
A:1話からガミラス出せばよかったのに。
B:それくらい変えた方が良かった?
A:誤解のないように言っておくけど、『2199』は大好きなんですよ。文句を言ってるわけじゃない。
B:さっき、言ってたじゃない。
A:『2199』は、出渕さんのヤマトへの愛情がたっぷりつまっている。偏っているけどね。オリジナルの『ヤマト』を好きだった人が、ここはこうした方が良かったなあという夢を出渕さんがかなえつつある。そこが素晴らしい。
(会場拍手)
A:第一章のあとで、「なんでコレがない」って島本(和彦)と言ってて。「庵野、なんで沖田のあの台詞がないんだ!」「その上で、そこに無かったものを足したんじゃないの」「俺は納得できん!」って島本は言ってたけど。僕はそれで良いと思う。一作目になかったものがここにはある。ブッチャン最高!
B:本当に(庵野と)一緒にやりたかったんですよね。そうすれば、そういうやり取りが出来たのに。
A:沖田艦長が物足りないというお客さんは、オリジナルを観てください。オリジナルで物足りないところは『2199』を観ていただいて。『2199』って、オリジナルにあったドラマってほとんどやってないじゃない。
B:そうかもしれない。
A:それは、オリジナルにあるんだから。それ以外のことをやりたいんでしょう。
B:検証したんですよ。今日、来てくださったのは、オリジナルが好きな方だと思うんですけど、もともとテレビシリーズとして作るときに、今の観客に伝わるのかと。それで、自分は好きなんだけど、若い人に伝えるには変えていかないとなと。

――聴いた話ですが、劇場にかける際に、ちょっといじっているとか。
A:テレビだと、ドンって感じで終わるんですが、劇場だと、それは余韻がないということで、少し変えています。

――これまでお気に入りのエピソードやキャラクターってありますか?
A:森雪ですね。1話の森雪はそんなに好きじゃなかったんだけど。第三章あたりから。
B:桑島いいでしょ。
A:桑島さん良いですね。……僕は『2199』に無いのは悲壮感だと思うんですよ。これは今の時代だからあえてそうしていると思うんだけど。
B:とはいえ、全く無くしているわけじゃないんだけどね。オリジナルにしても、今観返してそんなに悲壮感があるかというとね。テロとか公害とかあった当時の70年代のイメージの中でのものだから。そこを今やるとなるとね。3.11もあったし、さっきも言った、今の観客に伝わるかというと自信がなかったというのもある。
A:昔の悲壮感は、太平洋戦争をひきずってるからね。それと沖田艦長のキャラクターが背負っている。
B:今はアメリカと戦争をしてたことを知らない人もいますからね。当時はミリタリーブームってあったんですよ。小中学校の多感な時期にね。「モデルアート」や「丸」を買ってましたよ。高荷義之さんのイラスト目当てで。『ヤマト』って、SFもそうだし、戦記的なもの、70年代的な熱血物もあるんですよ。悲壮感とかそういうのも含めて、いろんなものが醸成されて目の前にドンって置かれたんです。どれかひとつなら、他の作品にもあったかもしれないけれど、いろいろな要素が上手いバランスであったんですよね。
――それを今作るのは難しいと。
B:良い作品であればあるほど、みんなの中で醸成されているイメージがあるわけですよ。庵野と僕とでも違うし。すべての人のヤマト像は、どこかズレている。全員を満足させるのは不可能だと最初から思っていました。その上で、なるべく寄りそえるように『2199』ではトライしています。

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