アンジェリーナ・ジョリー監督『不屈の男 アンブロークン』への日本のナショナリストの攻撃を報じる”USA TODAY”の記事

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日本のナショナリストたちは、ハリウッドの映画作家アンジェリーナ・ジョリーが、第二次世界大戦中にアメリカ人パイロットが日本の捕虜収容所で受けた過酷な体験を描いた新作映画を、反日プロパガンダとして非難し、映画とそのスター監督のボイコットを呼びかけている。

『アンブロークン』への反対キャンペーンは、国家の戦時中の歴史から好ましくない部分を取りのぞき、批判する見地に立つ者たちを攻撃してきた日本の右派勢力による新たな取り組みである。それは、アメリカの元捕虜たち――彼らの大半が90代で健康を損ねている――が戦時中に奴隷労働者として彼らを利用した日本企業に謝罪を迫ったことに対してのものだ。

「この映画を日本の人々は、捕虜が実際にどんな扱いを受けていたのかを理解するためにも見るべきです」と、作家・研究者で、アメリカ人捕虜に代わって運動をしてきた徳留絹枝は言う。

『アンブロークン』は、1936年のベルリン・オリンピックのスター選手であり、太平洋上で撃墜され、日本軍の収容所で2年以上にわたって過酷な試練を生き延びたルイス・ザンペリーニの物語を描いている。原作はローラ・ヒレンブラントのベストセラーだ。映画はアメリカではクリスマスに公開されるが、日本での上映予定はいまのところない。

右翼団体「史実を世界に発信する会」は、原作と映画は「作り事」ばかりだと主張して、映画の公開とジョリー監督の来日を禁止するよう配給業者たちに要求している。"Change.org"では、映画のボイコットを要求する日本語の嘆願が約9,500人の賛同者を集めている。うち1,000人以上がこの数日で集められたものだ。

ジョリー監督は、日本での映画へ反発について、何も心配はしていないと語った。「これは、美しいメッセージを持った美しい映画なのです。」と彼女は"USA TODAY"の取材に答えた。

「私たちは、戦争のあらゆる局面――東京大空襲も含めて――を提示することをとても意識していました。ただし、これはルイスの経験にもとづくものです。そして、彼は捕虜として非常に困難な時期を過ごしました。そこに私たちは敬意を払っていますし、あらゆる人々が戦争で苦しみを受けるのだということを伝えたいのです。」

右派勢力はまた、朝日新聞――今年のはじめ、従軍慰安婦について、信頼性を損なった情報源に基づく一部の報道を撤回したリベラル寄りの新聞社――の元記者を採用した大学を暴力で脅かした。「従軍慰安婦」とは、第二次世界大戦中に日本の軍隊によって性行為を提供することを強制された、その大半がアジア出身の女性のことを婉曲的に表した言葉だ。

米国国防総省によれば、第二次世界大戦中に、日本の捕虜になったアメリカ人の約40%が拘束中に死亡している。同様にドイツの捕虜収容所で死んだアメリカ人は約1%である。

ザンペリーニ爆撃手は、1943年5月に搭乗していたB-24型爆撃機が墜落し、もう一人の乗組員とともに、日本が占領していた西太平洋の島に上陸するまで47日をボートの中で生き延びた。最初の拘束者は彼らを丁重にあつかったが、ザンペリーニら捕虜たちが日本の収容所に送られてからは、継続的な体罰、飢餓と虐待を受けた。鉱山や港、戦時生産施設で働くことを強制されたが、これは明確にジュネーブ協定に違反している。

ザンペリーニは、アメリカの1936年度オリンピック選手団の最年少メンバーの1人として名声を得た長距離走者だった。拘束者に正体を知られてからは、彼はますます苦しみを受けることになる。長い時を経て、彼は戦争中の体験を許したと語るようになった。ザンペリーニは、この7月に97歳で他界した。彼は、長野オリンピックの聖火ランナーとして、1998年に日本を訪れている。日本政府は、2009年にアメリカやその他の国々の捕虜に対して正式に謝罪した。そして、元捕虜による日本への親善訪問を毎年受け入れている。

60以上の企業――三菱商事新日本製鐵といった大手メーカーを含む――が戦時中に捕虜を労働力として徴用していた。ほとんどのケースにおいて、彼らは帝国軍人に特別に金を支払って、警備員と看守として雇用していたと、カリフォルニア非営利団体で捕虜問題をめぐる日米間の対話を進めている徳留は指摘する。

「ジャパン・タイムズ」で長年映画批評を手がけるマーク・シリングは、『アンブロークン』はいずれ日本で公開されるだろうが、市場の仕組みが右翼の圧力よりも大きな役割を演じることはないだろうと言う。ジョリーの映画は、金を稼げるスター俳優が主演というわけではないし、ことさら日本に対して同情的というわけでもない。作り手の意図はともかく、日本の観客を戦争映画に惹きつけるための鍵となるような要素がない、と。「日本人キャラクターの暗い側面を描写するのであれば、それは最初から勝ち目のない戦いをしているのですよ。とりわけ、洋画に対して厳しい現在の興行においては。」とシリングは言う。「右翼による抗議は、とどめの一撃のようなものなのです。」

http://www.usatoday.com/story/news/world/2014/12/23/japan-unbroken/20803301/